まず、最初に強調しておきますが、この高山病の説明は、医者の私が責任を持って、高山病専門家の講義や医学論文や薬を処方した自分の経験などを基にした正確な記述です。と言うのは、インターネットには色々ないい加減な情報が溢れています。井戸端会議レベルの素人による噂話レベルの間違った情報が多いことに私自身驚いているからです。
ツアー客の高山病には予防の特効薬があります。特に、日本人のツアーの場合は一気に高地に登ることが多く、高山病になりやすいのです。多くの高山病は標高2千M以上ですが、時に1.5千M程度でも発病することがあります。個人差が大きく、同じ条件でも発病する人もいれば、どうもない人もいます。年齢も関係ありません。大事なことは、他の多くの病気と違い若い人にも起こるということです。また、同じ人でも発病したりしなかったりする場合があります。多くの場合は、軽症の「山酔い(Mountain Sickness)」で、頭痛、息切れ、吐き気・下痢等の消化器症状が主な症状です。ひどくなると、高地脳浮腫(High Altitude Cerebral Edema)で意識混濁したり、高地肺水腫(High Altitude Pulmonary Edema)で呼吸困難になり、命を落とすことにもなりかねません。私自身、ペルーのクスコで高山病になり、現地の医者に診てもらったことがあります。おかげで、楽しみにしていたマチュピチュ観光ができませんでした。大事なことは、この頭痛は高山病という立派な病気だと認識することです。特に、若い人の方が無理をしがちで危険です。決して、根性で治そうなどと考えてはいけません。
高山病の一番の治療法は、可能なら下山することです。酸素吸入も高山病に非常に有効です。アセタゾラミド(ダイアモックス)という薬がよく効きますが、現地で手に入れるのはたぶん困難です。従って、前もって準備しておくことをお薦めします。ダイアモックスことアセタゾラミドを、予防的に規定の半分量を内服することをお薦めします。ダイアモックス(250mg)の半錠を1日2回予防として内服します。覚えておいて下さい、高山病には予防薬があるのです。ワクチンと同じで、念のための予防です。副作用もしれてますし、ツアーで景色を楽しみにいきなり高地に行く人には、私は予防的内服を強くお勧めします。しかも、この薬、ダイアモックスは治療薬でもあるのです。つまり、高山病になってからでも効きます。但し、この場合は飲む量が倍になります。つまり、ダイアモックスを1回に1錠、1日に2回飲むのです。飲み薬ですから、効くのに30分から1時間はかかります。大事なことは、高地で頭痛になった時は高山病だと知っておくことです。驚くことに、ツアーの添乗員でもそんなことさえ知らない人もいるのです。
ちょっとややこしいのは、この特効薬、ダイアモックスが日本では手に入れにくいことです。一般薬局ではダイアモックスは売っていません。日本でも良く使われる昔からある処方薬(つまり、医者の診察が必要)ですが、「高山病」としては認可されていません。従って、多くの日本の医者自身が効能を知りません。「高山病」としての保険適応がないということは、ED(勃起不全)に対する有名な「バイアグラ」のように自費診療です。医者自身が効能を知らないと保険外の薬は処方してくれません。まともな医者ほど、責任が持てないので自分の知識外の処方はしません。自費診療ですから、値段も一律ではありません。参考までに、私が処方した済生会病院と国家公務員共済病院では、5,500円程度と7,500円程度でした。
私はもちろん処方します。(info@kanoya-travelmedica.com)。日本旅行医学会のウェブサイト(http://www.jstm.gr.jp)には、処方できる全国の医師のリストもあります。
余談ですが、今回このサイトを開くために私自身インターネットで情報を調べて見ました。間違った情報がかなりあります。一つの理由は医者でもない一般の人が好き勝手に書いているものにとんでもない嘘の情報が多いです。日本の保険診療のシステムも知らないで、ダイアモックスは高山病の薬ではないなどと書いているのもあります。確かに、薬の情報だけ調べると、保険診療上の理由でそうなります。しかし、医者のバイブルのような「今日の治療指針」には、高山病の治療薬としてはっきりダイアモックスが書いてあります。但し、保険適応はない(患者さんの自費)とも書いてあります。私はもう数十人の患者さんに処方していますし、その後も副作用がなかったか、予防効果はあったか確認しています。ほとんどの患者さんに効果があり、回りで何人かの人が高山病になり苦しんでいたけど、おかげで旅行を楽しめましたと感謝されています。副作用も軽微で、手・足先の軽いジンジンするしびれと軽い多尿・頻尿程度です。頭痛があるから鎮痛剤というのは単純すぎます。少しは効果があるかもしれませんが、原因疾患に効くダイアモックスの方がはるかに効果があります。鎮痛剤に関しては、高山病の症状をマスク(隠す)するので、却って良くないという意見の医者もいます。また、ダイアモックスに利尿作用があるのを誤解してか、利尿剤として有名なラシックスが高山病に効果があるというデマもありますが、全く効果ありません。むしろ、利尿によって脱水気味になるので明らかに逆効果です。
国際山岳学会は必ずしも、ダイアモックスの予防投与を万人には勧めていないようですが、これもよく読むと、過去に高山病になったことのある人は例外としてますし、そもそもこの学会は本格的なトレーニングを積んだ登山家のためのガイドラインであり、一般の旅行者を対象とした我々日本旅行医学会とは立場が違います。私が、「ツアー客の高山病には予防の特効薬があります。」と強調したのはそういう意味です。しかも、専門家の登山家でもダイアモックスを使用しています。8千M以上のチョモランマに登頂したベテランの女医さんにある学会で質問したら、彼女もふもとの4~5千Mに行く時は一気に飛行機等で行くので、ダイアモックスを内服するそうです。
最近の私の経験からは、アルプスの主要観光地は10人から20人に1人程度の発病率と思われますが、チベットの天空列車は5千メートルの通過駅もあり、かなり危険です。二人に一人くらいの発病率で、入院者や死者も出ています。